私は、アイドルです。アイドルと女性のあり方の接点に関心があります。この本と出会ったきっかけは明確に覚えていないのですが、おそらく口コミを見ました。もちろん本書がフェミニズム小説であることも知り、いや、だからこそ手に取りました。
「フェミニズム」という言葉が持つ意味合いは、日本では? あまり心地良いものではありません。フェミニズムは女性軽視、蔑視を浮き彫りにし、ジェンダーバランスを整えるために時には必要な視点だと思います。しかし、日本では「フェミニズム」と口にするだけで嫌悪感を示されることが多々あります。
『82年生まれ、キム・ジヨン』は、私たちの生活の身近な部分にこそフェミニズム的視点があることを物語の中でそっと示してくれる書籍です。
様子がおかしいキム・ジヨンの言動から始まる物語は、冒頭から困惑し、ハラハラさせられるスピード感で一気に引き込まれていきます。物語が進んでいくと、それはジヨンのカルテとして記されていることに気づきます。ここに記されたジヨンの人生を追うことは、自分の人生を振り返っていくような感覚でもあります。共感する気持ちもありますが、まるで親しい友達ジヨンと会話しているようです。例えば、ジヨンに月経が始まったときのこと。姉だけに伝え、姉から母に伝えた場面。具体的な感情が鮮明に描写されているわけではないのですが、母に言いにくい恥ずかしさが私にも蘇ってくるのです。なぜ、家族みんなの前で話せないのでしょう。家族だから話せないのでしょうか。まさか、あの時の心情を本書で思い出すとは思いもしなかったです。
『82年生まれ、キム・ジヨン』は、日常の些細な、誰もが一度は気になったことがあるかもしれないけどやり過ごしていたこと、或いは疑問も抱かず当たり前だと思っていたことに今更ながら気づきを与えてくれるかもしれません。そんな些細なことに隠れたフェミニズム的視点を持つことによって、ジェンダーバランスを整えるための言葉と勇気を本書は与えてくれます。
そして、最終章はジヨンのカルテを振り返った精神科医のエピソードです。考えも及ばなかった世界があること、実際に奥さんとの生活の中で子供を持つ女性として生きることの難しさについて話します。しかし、そんな医師が最後に口にした言葉は、少し残念なそれでした。先生が発した最後の言葉こそ、差別になりうるのではないかと感じました。
差別するつもりはなくても、無意識のうちに発した言葉が差別につながっていたなんてことはよくあることです。むしろ、そんな言葉がありふれている世界かもしれません。だからこそ、私が何をされたとき、どんな言葉を向けられたときに嫌だと感じるのかを言葉にする重要性を改めて感じました。明確な結論のない本書の続きを作っていける未来にしたいです。
韓国で130万部突破、2020年10月には日本で映画公開も決定した『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ著 斎藤真理子訳)。本書に、元アンジュルム、ハロー!プロジェクトリーダーの和田彩花さんが書評を寄せてくださいました。