■「傷つきやすい平成のわたし」
福嶋 「傷つきやすいわたし」って斎藤さんの『社会的ひきこもり』にも出てきますけど、それって結局、人とつながりたいけど傷つきたくないという矛盾に苦しむってことですよね。でも正直に言うと、わたし個人には、そういう矛盾が生まれたり、それに苦しんだりすることがないんですよ。つながりたいと思えばがんばって他人に対して開いていくし、傷つきたくないと思えばシャットアウトするし……。つくづくわたしは昭和の女で、平成の子はわからなすぎる(笑)。
斎藤 たしかに近年の承認欲求の高まり具合は異常で、つながってないと死活問題だし、承認の引き上げは絶望一直線という感じです。いじめ自殺の事例にも、SNSを外されたことがきっかけとしか思えない事案があったり。
福嶋 たとえばですが、自分のことを「ブスだブスだ」と言いながら、めっちゃかわいい写メ撮ってアップしたりするじゃないですか。どっちなんだよ!と(笑)。
斎藤 ひきこもっているひとの自己愛に近くて、「自傷的自己愛」と呼んでるんですけど、自分を落とすことは自分がいちばんうまいというプライドがあるんです。
福嶋 めんどくさい(笑)。自虐?
斎藤 自虐なんだけど、自分を虐待できるのは自分だけで、それはわかってるから他の奴は邪魔するなという変なプライドがある。自己愛が自虐のかたちで出るんです。
福嶋 自分に自信がない?
斎藤 自分に自信がないことにかけては誰よりも自信がある(笑)。
福嶋 どっち(笑)。
斎藤 僕の解釈だとプライドと自信の解離なんです。プライドは「ありたい自分」で、自信は「いまの自分でOK」ということですよね。これが解離していると、「ありたい自分」でないところから自虐が生まれるんだけど、一方で自虐できる自分はまともだという自信がある。
福嶋 「努力しないで成果が欲しい」とか「自分は何もしないけど愛されたい」とか、すごい身もふたもないことを言うんですよね(笑)。
アイドルって簡単に言えば、愛されるのが仕事で、愛が欲しいのならば、あなたがまず愛を与えないとファンはあなたを愛してくれないよ、っていつもわたしは言うんですけど伝わらない(笑)。みんな自信がないんです。すぐ、「わたしはかわいくないし、歌もダンスもうまくないし人気もないし……」とか言うから、じゃ、やめればって話なんですけど(笑)、「じゃあどうしてアイドルになろうと思ったの?」と訊いていくと、「ぜんぜん自分に自信なんてないんですけど、でもあの子がアイドルやっているのを見て、こんな私でもアイドルになれるかもしれない、私も勇気を与えられる存在になれる……と思いました」とか。すごく良い話だな〜と思う部分と、ちょっとだけその子に失礼だろ!という部分も(笑)。
でも今は、自信のない子のほうが人気が出ますね。ファンは「自信もって、そんなことないよ。きみはかわいいよ」と言いたい、そういう関係がSNSによってエスカレートしているのが現代の惨状という気がします(笑)。
2008年の刊行から10年経ってなお注目を集める『友だち幻想』(菅野仁、ちくまプリマー新書)。ひきこもりのエキスパートにしてポップカルチャーにも造詣の深い精神科医・斎藤環さんと、でんぱ組.incやわーすた、虹のコンキスタドールなどの辣腕プロデューサーである福嶋麻衣子さんに、現代の若者や子どもたちの最重要課題と言っていい〈友だち〉〈つながり〉をキーワードに、いまなぜ『友だち幻想』か?をお話しいただきました。