■カースト化にも理由がある
斎藤 ただ、まず仲良しのグループができて、グループ間の力関係がカースト化していくわけですけど、みんながそれに苦しんでいるように、それはほっとくとそうなってしまうんですね。そうしないための予防策とかありますか。
福嶋 難しいのは、女の子の集団を管理するにはカースト制度があったほうが楽なんですよね。むしろカーストを作ったほうがいいくらい(笑)。
斎藤 そっちになるんですね(笑)。
福嶋 一〇人以上のグループは、「あなたは人気があるからセンター」とか積極的に役割をあてはめてあげたほうが、うまくいくと思います。
斎藤 クラス運営もカーストがあったほうがうまく回るんですよね。
福嶋 だから、そういう部分ではわたしはアンチカーストではないんです。
斎藤 役割分担は別に悪いことではないですよ。下位が漠然と固定されてみじめな思いを強要されるとかでなければ。
福嶋 下位というのではないけど、センターじゃない子にも、あなたたちの役割はこれですよというのをきちんと与えられればいいんです。まだ人気はないかもしれないけど、あなたができるこれを伸ばしていけばいいよ、というガイドをしてあげられればいい。
斎藤 やっぱり人気がバロメーターになるんですね。
福嶋 いちばんわかりやすいですから。
斎藤 僕は人気で区分されるのはありだと思っていて、スクールカーストが理不尽なのは空気で決まるからです。なんとなく「おまえオタクだから最下層」みたいにぞんざいに決まっていて、それがみじめさを助長する。
福嶋 勉強でもかけっこでも、明白に勝ち負けが出るものなら、区分があるのは悪くないと思います。
斎藤 アメリカのスクールカーストがまだマシなのは、トップがアメフトとチアガールなのでわかりやすいんです。日本だとヤンキーとオタクでわかりにくいし、結局コミュ力という、声の大きさや空気を読む能力で上下が決まってしまう。人気の多寡で役割を決めるのはむしろフェアでいいと思います。
福嶋 理由があると安心しますよね。だから、常に理由を与え続ければいいんですけど、先生は与えてくれないんですよね。
斎藤 先生はカーストを良く知らないか、知っていてもむしろ利用する側ですから。最近だと、先生が下位カーストをかまうと先生も下位に落ちちゃったりして完全にカーストに組み込まれている。
福嶋 えっ、そんなことになってるんですか。ひどい。
斎藤 内申という権力を持っているんだから、もっと偉そうにしてればいいのに、やっぱり上位におもねってしまうんです。それが空気という権力の恐ろしさですね。
福嶋 わたしはあまりメンバーたちにナメられないんですよ。むしろ怖がられてますね。怖くしてるんですけど(笑)。
斎藤 先生でもそうじゃなくても、やっぱりそれはできるひととできないひとがいますね。福嶋さんはいまの仕事も適職ですが、先生をやってもふつうに人気出ると思います。(後編に続く)
2008年の刊行から10年経ってなお注目を集める『友だち幻想』(菅野仁、ちくまプリマー新書)。ひきこもりのエキスパートにしてポップカルチャーにも造詣の深い精神科医・斎藤環さんと、でんぱ組.incやわーすた、虹のコンキスタドールなどの辣腕プロデューサーである福嶋麻衣子さんに、現代の若者や子どもたちの最重要課題と言っていい〈友だち〉〈つながり〉をキーワードに、いまなぜ『友だち幻想』か?をお話しいただきました。