このまま行けば日本は財政破綻に陥るということは、以前から言われてきた。しかし、どこかリアリティがなかった。この書の一番の特徴は、このまま何もしなければ大破局を迎えるということが、きわめて説得的に語られていることだ。
国債などの政府の借金額はすでに一千兆円を超えているが、日本の預貯金の総額はおよそ千六百兆円。しかも、国債の九割以上を日本人が保有しているので、危機など起きないという声が強かった。ところがこの書によれば、日本の国債の発行残高はGDP(国内総生産)の二二〇%にも上る。イタリアですら一二〇%だから、大変な借金大国だ。しかもこの借金は、いまなお増え続けており、二〇三〇年代に入る前に、GDP比で三〇〇%を超えてしまう計算だ。そうなると、国内で国債を買う人間は誰もいなくなってしまう。国債の発行額が、国内の預貯金総額を上回ってしまうからだ。
買い手がいなくなれば、国債価格は当然、下落する。そうなると、国債の金利は上昇。現時点で長期国債の金利は約〇・五%だが、これが二、三%まで上昇すれば、企業や個人の借り入れ金利も上がり、利払い負担が増加。金融機関は自己資本比率を維持しようとして、貸し剥がしに走る。このため企業の資金繰りが行き詰まり、収益も悪化。それによって株価は下落し、円が売られ、円安が進んでいく。こうして日本は、債券、株、通貨のトリプル安という悪循環に陥ってしまう。ここで抜本的な財政再建を実現させなければ、ハイパーインフレに陥りかねない。これが、この書が想定する最悪のシナリオだ。
それにしても、どうして日本はこんな借金大国になってしまったのか。政治家の数が多すぎるとか、官僚をはじめとする公務員の給与水準が高すぎるとか、色々言われてきたが、最大の問題は自民党の政治体質にある。
言うまでもなく自民党は保守政党だが、政策自体はリベラルなもので、数々の規制を設けるばかりでなく、社会福祉に関して手厚い予算を組んできた。そこが欧米との大きな違いだ。
たとえば米国の場合、共和党が保守で、民主党はリベラル。共和党が政権党になれば、市場にはできる限り介入せず、自由競争に任せていく。だが、それによって格差は拡大し、数多くの敗者が生まれてくる。すると、次の選挙では民主党が勝利し、敗者を救うべく、社会福祉への支出を手厚くする。それによって借金が増えていき、財政が悪化。すると今度は共和党が政権を取る。そんな風にして、保守とリベラルの間で政権交代が行われてきた。これはヨーロッパ諸国でも変わらない。
それに対して日本の場合、保守党である自民党が、リベラル政党と同じ政策を採ってきた。このため、一千兆円という借金を作ってしまった。本来なら、財政赤字が深刻化すれば、歳出を削減すると同時に、歳入を増やさなければいけない。しかし自民党にはこれができない。ならば自民党に代わる保守政党が出てこなくてはいけないのだが、日本の野党は全て、自民党以上にリベラル。だから問題は、保守にもかかわらず、リベラルな政策を、つまり、バラマキ政策をしてきた自民党にある。
アベノミクスにしても、第二の矢は財政出動だから、バラマキに他ならない。本来なら方向転換をし、規制緩和を進め、歳出を減らし、歳入を増やさなくてはならない。つまり、社会保障費を減らし、税金を増やさなくてはならない。しかし、そんなことが本当にできるのか?
それが不可能なら、この国は破滅へと向かっていく。橋爪大三郎さんの言葉を借りれば、「地獄に向かって一直線の、ジェット・コースター」に乗って、破局へと突き進むしかない。その根拠となる数字を、小林慶一郎さんがクールに描き出している。果たして二〇二〇年代にこの国はどうなっているのか。それを知るためにも、この書を国民の皆さんに読んで欲しい。