この鼎談は、「マヌケ反乱とは何か?!ーー『世界マヌケ反乱の手引書――ふざけた場所の作り方』(筑摩書房)刊行記念トーク」のタイトルで、2016年11月6日(日)、紀伊國屋書店新宿本店で行われた。(写真撮影=迫川尚子)
柄谷行人氏は、『朝日新聞』でこの本の書評(2016年9月18日付読書欄)を執筆、それより以前(2011年9月11日)、松本哉氏らの「原発やめろデモ!!!!!」でスピーチをし、その後『脱原発とデモ』(筑摩書房、2012年)で松本氏と対談した。
井野朋也氏は、新宿駅東口にある新宿ベルクの店主で、『新宿駅最後の小さなお店ベルク』(ちくま文庫)の著書があり、この本の解説と帯文は、柄谷さんが執筆した。
そして、松本氏と井野氏は、前からこの日が初対面だった。
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●それぞれの出会い
松本 高円寺で「素人の乱」という名前のリサイクルショップやゲストハウス、飲み屋などをやってます。謎の意味のわからない人たちが油断して生きてるけど、なぜか成り立ってるマヌケなエリアみたいなのをつくろうと思ってます。どれだけ無駄なことをやるかみたいな感じで、いろいろやってますね。本のことは後々言いますけど、とりあえずはそんな感じです。
井野 新宿駅の改札そばでベルク(BERG)というファーストフード店をやっている井野と申します。今日は柄谷さんと松本さんに挟まれるというのが、本当に嬉しくて。皆さん、松本さんの新刊はもうお読みになりましたか? 柄谷さんが『朝日新聞』で書評したから、松本さんはたぶんいろいろな人に嫉妬されてると思います(笑)。
柄谷 いや、そんなことはないでしょ。
松本 そんなもんなんですかね。でも、柄谷さんの本、難しくて何もわからないですからね(笑)。2ページぐらいでもう諦めました。
井野 死ぬまでに1回でいいから柄谷さんに書評してほしいという作家、思想家はいっぱいいるので、みんな内心嫉妬しているのではないかと(笑)。でも、書評されたことのすごさが全然わかってないところが松本さんらしいですよね。ベルク自体は普通のファーストフード店なんですけど、個人商店の店主としてはいろいろな夢があって、僕はかねがね、柄谷さんに店に来てもらえたら嬉しいなと思っていました。柄谷さんは今でも月に1回、官邸前のデモに出られているそうなんですが、その帰りにベルクに寄ってくださっていることを知って、「うわ、もう夢がかなっちゃった」と思いました。そして、松本さんもベルクにいらっしゃっている。松本さんのことは「素人の乱」の活動を通じて昔から知っていたので、やはりとても嬉しいです。とにかくこれから、何を夢にして生きていけばいいのかなという感じです。
柄谷 僕はベルクのことは前から知ってたけど、あそこはいつも混んでてね。デモの帰りにあそこに行っても、いっぺんも中に入れたことがない。いつも外で飲んでいた。前からベルクは『ベルク通信』というのを送ってくれていて、井野さんのパートナーである迫川尚子さんが写真集を出していることもあって、店のことは知っていたんだけど。井野さんの『新宿駅最後の小さなお店ベルク』という本が文庫になった時、僕は解説を書いた。実際に出会ったのはその後だね。
松本さんとはまさにそのベルクに近い、新宿アルタ前のデモ(*「原発やめろデモ!!!!!」2011年9月11日)で会いました。しかも、道で出会ったわけじゃなくて。僕は街宣車の上で喋ることを頼まれて、街宣車のはしごを上がっていった。その日はデモで17人不当に逮捕されて、機動隊が取り囲んでいた。街宣車を照らす照明だけが付いてて、僕のほうからは周りが見えない。そういう状況で見えたのが、同じ街宣車の上にいた、この人だった。こういう初対面って、めったにないと思うんですけど。そこで彼は「柄谷さんの本は大学の時に読めと言われたから読んだけど、2ページしか読めなかった」と言って僕を紹介した。
●この本を出した意図
松本 今回は『世界マヌケ反乱の手引書』の出版記念イベントとしてやらせてもらってるんですけど、この3人は謎の関係というか、仲がいいようで実はお互いのことを知らないんじゃないかとも思います。柄谷さんと初めてお会いしたのは2011年です。その頃は原発の問題で日本政府もやばいんじゃないかという感じがあって、いろいろとデモが起こったりして僕も反対していた。日本の中もやばいし日本政府もやばい。だから世の中はもっとよくなってほしい、よくしなきゃいけないという思いがあります。それと同時に海外でも、日本とだいたい似たような現象が起こっている。政府はだいたいろくでもなくて、若い奴らがみんな怒ってる。アーティストやミュージシャン、あるいは個人で店をやってる人たちなどは、「なんか自由にできねぇな」みたいなことを言ってる。海外に同じようなセンスを持った仲間が大量にいるんだけど、彼らは全然つながってない。それはすごくもったいないなと思った。海外では国境を越えてつながることがけっこうあるんだけど、それは偉い人たちがつながったり、スポーツでつながったり、社会運動も真面目な人たちは繋がってたりするけど、マヌケな奴ら同士はつながってねぇなと。しかも、各地のマヌケな奴らは貧乏すぎるから、だいたい国から出られないんですよ。だから常々「こいつらとこいつらとこいつらが仲良くなったら、すげぇ面白いことになるのにな」と思ってました。じゃあ、海外をひたすら飲み歩いたりいろいろしまくって全員飲み仲間みたいになったら、悪い奴らがはびこった世の中でも面白く生きていけるんじゃないか。そうすれば、いつの間にかすごい勢力になって、気づいたらそういう悪い奴らが滅んでるぐらいになるんじゃないかと思って。それで僕は世界マヌケ反乱をやろうと思って、この本を出すことになったんです。