いま、非常に複雑な気持ちです。これまで私は、ツイッターやnoteで発表される三春充希さんの世論分析を戦略立案の参考にしてきました。この本の内容が広く知られると、そのことの優位性が失われてしまう。世論調査の正しい見方が広まることは、政治や民主主義にとっては良いことなのですが……。痛し痒しというところです。それくらい、三春さんの分析は貴重な資料です。
本書第Ⅱ部の、衆院選の得票率をもとに市区町村ごとの政党支持率を地図にする研究は面白いですね。私にとって、街頭演説は有権者一人ひとりに訴える場というだけでなく、世論を肌で感じる場でもあります。その地域の人々が私や所属政党に対してどれくらい共感してくれているかが、ビビッドに伝わってくるのです。そこで直観的に感じていることがデータで裏付けられ、「なるほどな」と思うことがたくさんありました。
1年半前、まだ小池百合子氏から「排除」といった言葉が出てくる前の段階でしたが、街頭に立ちながら、私の持っていた「希望の党って違うよな」という感覚は、支持者とも共有していると感じました。そこで感じた世論が、立憲民主党を立てることにつながっています。
このときの選挙で、一種の風のようなものを受けて立憲民主党は躍進しました。しかし、民主党政権が成立した選挙を含め、過去には大きな風を受けて大勝しても、そのことが次の失敗につながることが少なくありませんでした。地道な積み重ねの中から生まれる空気の動き、流れというものは、一瞬の風と重なる部分も大きいけれども、まったく同じではないと思います。だから今回、風を流れにできているのかを意識していますが、その上でも三春さんの政党支持率の分析が参考になりました。
野党の支持率が選挙時に上がる現象を本書では「選挙ブースト」と呼んでいますが、これは私も昔先輩に教わったことがあり、経験的には知っていました。その反対に選挙後の支持率が下がることはわかっていたのですが、それがどれくらいなのか。
本書にあるように、各社が発表する政党支持率にはばらつきがあります。三春さんがそれらを平均したグラフを発表してくれているので、個々の世論調査の数字に過剰反応することなく、冷静に分析することができました。この1年半、「この下がり方なら、風の中の一定部分は流れになっている」と自信を持ちながらやってきましたが、その裏付けになっています。
これまでの失敗した選挙を振り返ると、選挙のときには有権者を向いていても、その後は国会の中のことばかりになっていました。この反省から、立憲民主党では、有権者のほうを向き続けることを意識しています。
高度経済成長の時代、政治家の仕事は利益の配分でした。今は有権者を説得して負担の再配分を行うことが政治家の大切な仕事です。それはまさに世論を変えるということです。これは、世論調査の数字を変えるという意識ではできません。まずは小さな集会、小さな会合で、政治家個人の固定的な支持者に理解・納得していただく。それを徐々に広げていくしかありません。選挙に勝つためには風も必要です。しかしそれ以上に、世論を変えていくための地道な活動を、有権者の顔を見ながら続けたいと思います。
この本は、選挙の面白さを伝える読み物でもありますね。我々の世代にとっては、選挙の開票速報というのがものすごく面白いテレビ番組でした。出口調査がなく、中選挙区では番狂わせも多かったので、観ていてスリルがありました。私自身も幼い時から開票速報が好きで、政治への関心はそこから始まっています。
三春さんは1988年生まれだそうですが、今の世代はそれをSNSでやっているんですね。これもひとつの政治参加ですし、三春さんほど徹底的にやれば、世の中の啓蒙という大きな効果もついてくる。こういうかたちで若い人たちが政治の世界に入ってくるのは、とても良いことだと思います。
三春さんは下手な政治評論家よりも政治をわかっているので、我々に不利な分析結果が出てきたら怖いというのも、本音ですけれども。
(構成=編集部)