現代の社会はどのような姿をしているのでしょうか?
限られた視野しか持たない私たちには、社会のすべてを見ることはかないません。
だから私たちはそれぞれが生きる限られた場所の内側から、見たものや聞いたこと、感じたことをもとにして、社会に対する認識を組み立てます。
けれど私たちはお互いに生活している環境も、経験してきた出来事も異なります。
そのため、組み立てられた一人ひとりの認識は互いにずれていて、自分や自分の周りはこうであるのに、他の多くの人たちはそうではないという違和感が生まれたり、なぜ社会がこのように動いていくのかがわからなくなりがちです。
これは地上にいる人が、自らの立つ場所の地形を知るということと似ているかもしれません。地上からの視界だけでは、自分を取りまく広い国や世界の姿を知ることは容易ではないわけです。
しかし私たちはデータを分析することによって、空から地上を俯瞰するような視界を持つことができます。
例えば口絵2の与党列島を見てください。
これは48回衆院選の比例代表について与党と野党の票をそれぞれ合計し、与党の得票が上回った自治体だけを陸地とした地図です。
対して口絵3の野党列島は、野党が上回った自治体だけを陸地としたものです。
こうしてみると、西日本と東日本では大きく状況が異なることが浮かび上がります。
もちろんこれは、社会を選挙という特殊な面から見たものです。しかし1億人を超える多くの人たちが意思表示をする場面で、一人ひとりの一票が、そして一人ひとりの棄権がこれを描き出したということには、何か注目に値する背景があるはずです。
私はもともと自然科学の研究をしていましたが、原発事故以降の政治状況に問題を感じ、社会のあり方を模索するようになりました。そして自然科学における洞察やデータ処理の方法を活かして、世論調査や選挙結果のデータから社会の姿を描き出し、提示するということに取り組んできました。
世論調査や選挙結果は、社会に生きる私たちのあり方を知るための武器となるもので、それ自体がとても面白いものです。データが描く様々な景色を紹介し、その面白さを伝えることが本書の狙いの一つとなっています。
しかしもう一歩踏み込むなら、社会の姿を捉えようとするのは単純な興味からだけではなく、社会を良い方向に変えていくにはどうしたらいいかを考えるからです。
もちろん何が「良い」ことなのかは判断が分かれる面もあるでしょう。けれど社会の姿をきちんと捉えられなければ、どのような判断も土台を失います。だから本来、正確に社会の姿を捉えるというのは政治的な立場を問わず重要であるはずです。
この社会には様々な歪みがあり、解決すべき事柄は山積みです。けれど今の私たちは、歪みを見えないようにしたり、歪みを押し付けあったりしているようで、協力してそうした直面する課題と向き合い、解決を図っているとはいいがたい状況です。
なぜ今の社会はこうなのでしょうか? それはこのままでいいのでしょうか? 本当にこうでしかありえないのでしょうか?
こうした疑問や違和感を共有する人たちがいるはずです。それは政治に対する問題意識があるけれども、展望が開けない人たちかもしれません。あるいは支持政党を持たない無党派層の人たちかもしれません。政治や選挙に失望している人かもしれません。
それは決して少なくないはずなのです。
そうした人たちとともに、社会を見てみたい。そしてできれば、何か手ごたえのある変化を作り出すことができたら。こうしたことが本書のもう一つの狙いとなっています。
本書は大きく三部からなります。第Ⅰ部では全国で実施された全ての世論調査を総合することによって、内閣支持率と政党支持率の推移を最高の解像度で描き出し、その解釈を考えます。世論調査がどのように行われているのか、それは本当に妥当なのかということから話をはじめますが、そうした内容が煩雑に思われる方は、基本的なことはある程度とばしていただいても構いません。
第Ⅱ部では、世論調査と選挙結果を併用し、様々な意見を持つ人たちが、どこに住んでいるどういう世代の人なのかということに考えを進めます。前半では各政党の地盤を精密に描き、それが形成された歴史的な経緯に触れ、東日本と西日本、都市と地方の違いを読み解きます。そして後半では世代ごとの政治的関心や年齢別の投票率の検討を経て、国政選挙の投票率が急落した理由に切り込んでいきます。
第Ⅲ部では、世論を政治に反映させる手段として、選挙は世論を適切に反映するのかというところまで立ち返って議論します。また、世論調査を利用して選挙の情勢を把握する方法と、その情報を利用して個々人の力を発揮させることを考えていきます。