【季節・夏 分類・生活(飲食)】
パクチー
傍題 コリアンダー 香菜(シャンツァイ)
パクチーほど、大好きな人と大嫌いな人に分かれる食材も珍しい。かく言う私も、「生まれ変わっても食べない」と宣言するほどの大のパクチー嫌いだった。カフェでアルバイトをしていたとき、コックさんたちがガパオライス用のパクチーを切っていると、「パク臭がする」と言ってキッチンに入らなかった。まかないも「パク抜き」でお願いしていた。
ある年の夏、急にトムヤムクンラーメンにハマった。もちろん食べるたびに「パクチーなしで」と頼んでいたのだけれど、言い忘れたらやはり、こんもりとパクチー。避けようとしても、茎の部分は口に入ってしまう。パクチーだ。ああ、パクチーだ。目を三角にしながら食べた。
後日、またトムヤムクンラーメンを食べるとき、忘れずに「パクチーなしで」と頼んだ。すると、何か足りないのである。その日の夜も、たまたま友人とベトナム料理を食べることになったので、そのときはパクチーも食べてみた。あれ……? うん、これだ。この味、匂い。そのとき食べていたのはカオマンガイだったのだけど、この料理の完成のために、パクチーは必要だった。私はついに、パクチーの存在を肯定した。
その後、フォーを頼んでパクチーが少ないと、残念な気分になるようになった。輸入食品店にあったパクチーラーメンも買い溜めした。よく行くクラフトビールの店では、パクチー餃子を頼まないと始まらないと思い始めた。知り合いでお店をやっているという人が、パクチーバターをつくったとSNSにアップしていて、気づいたときにはそのお店を予約していた。いつの間にか、私はパクチー目当てでものを食べる人間になってしまっていたのだ。
パクチーは、酸味や辛味のある食べ物との相性が抜群、暑い地域の食べ物。この猛暑、エスニック料理にもりもりのパクチーで乗り切りたい。大嫌いな皆様には、恐縮です。
〈例句〉
パクチーや星を礫として見たい 佐藤文香
テラス席3名パクチーを別盛りで